資料NO. :  10
資料名  :  

いま真実をあばき政治を正すとき――――

被爆国日本で進む核武

 槌田敦氏学習会に参加して〜

制作者  :  W.T.
制作日  :   2002/08/03
 

 最近,日本の核武装についての政府首脳の発言が相ついだ。

 安部官房副長官が早稲田大学で行った講演の中で「(小型であれば)核兵器の使用も憲法上問題ではない」という趣旨の発言をしたことが,5月下旬週刊誌で報道された。これをきっかけにして福田官房長官も,核兵器について「専守防衛なら持つことができる」と言明,そして非核三原則について「今は憲法だって変えようという時代だから,国際情勢(の変化)や,国民が(核兵器を)持つべきだということになれば,変わることもあるかもしれない」と延べ,将来的には政策を転換し,核兵器を保有することもありうるとの見解を示した。

 このような情況の下,「原発と有事法と日本の核兵器」と題する槌田敦さんの学習会が「浜岡原発止めよう!関東ネットワーク」のよびかけで持たれた。この学習会の報告を感想をまじえて述べることにする。

 

■政府見解は一貫して「核兵器は合憲」

「憲法上も核兵器は持てる」との政府見解は,何も今回が初めてではない。驚くべきことに戦後さほど経っていない1957年に,すでに岸首相が防衛的核兵器は許されるが,持たない,持ち込ませないと述べている。1978年参議院で法制局が,防衛的であるならば核兵器の保有も可能と答弁しているからこの見解は定着しているといえる。憲法上は保有する可能であるが,政策として非核三原則をとっているというのが,一貫した日本政府の見解である。

 インド・パキスタン核実験の衝撃さめやらぬ1998年6月,参院で大森法制局長官はそれまでの政府見解を引用した上で,「その見解をベースにすれば(核兵器使用も)可能であろうということに理論的にはなる」と答え,「保有は合憲」からさらに踏み込んで,憲法解釈上は核兵器の「使用」も可能という見解を示した。安部氏の考えは個人的なものではなく,すでに以前からの日本政府の公式見解だったのである。

 しかし,なぜ今この時にことさら政府の中枢の人間がこの様な発言をするのであろうか。福田も小泉も「小泉内閣では非核三原則の見直しはしない」ととってつけたように言っているが,憲法改正と同じように非核三原則の見直しをしたい,核兵器も持ちたいという本音をちらつかせて,反応を見たというのであろうか。小泉は「備えあれば憂いなし」と言って有事法制を作ろうとしているが,その論法でいけば究極の備えは「核兵器」であり,究極の守りは先制攻撃,つまりブッシュの唱える「核による先制攻撃」に行きついてしまうのである。

 

■日本最初の原子炉は軍用炉

 ところで安部・福田のような発言がでてくる背景として,日本の核武装準備がかなり進んでいると見なければならない。

 核兵器を作るための核物質はどのような原子炉で得られるのか。

@    国鉛炉(チェルノブイリ原発と同型)

A    重水炉(CANDU炉−カナダの原子炉)

B    高速炉

 その他に原子炉ではないが,レーザーを使ってウランやプルトニウムを濃縮するレーザー濃縮法によって核兵器級のウランやプルトニウムを得る方法がある。

@黒鉛炉は日本で原発が導入された最初の原子炉である東海1号炉である。日本は最初の原子炉としてイギリスで開発されたコールダーホール型と呼ばれる黒鉛減速炉を導入したが,この原子炉はそもそも核兵器のプルトニウムを作るために開発されたもので,防衛庁もそのことをよく研究していた。日本の核武装を阻止するとともに,アメリカの軽水炉と濃縮ウランを日本に売りたいアメリカ政府によって,この型の炉は日本では東海1号炉のみとされた。そしてこの炉で生産されたプルトニウムはすべてイギリスに送られ,イギリスの核兵器となった。

Aカナダで開発されたCANDU炉と呼ばれる重水炉。インドはこの原子炉を導入して原爆を作った。日本の電源開発が導入しようとしたことがあったが,カーターが止めさせた。

 

■高速炉は高純度プルトニウム生産炉

B高速炉 高速炉ももともと高純度の兵器用プルトニウムを生産するために開発された原子炉である。高速(増殖)炉「もんじゅ」は,投入された以上のプルトニウムがとれる夢の原子炉と宣伝され導入された。しかしこの炉は核燃料のリサイクルのためではなく高純度のプルトニウム239を作るための炉なのである。高速炉の炉心のまわりにブランケットといって毛布のようにウラン238(天然ウランから核分裂するウラン235をとった残りの燃えないウラン)をおいて運転すると,これに中性子が当たってウラン238がプルトニウム239になる。しかも高速炉でできるプルトニウムは98%以上という高純度プルトニウムである。

 レーザー濃縮法であるが,アメリカとフランスはすでにその技術を手にしている。しかしアメリカはそれを日本に渡していない。そこで日本は独自で研究していたが,どうやら完成するメドがたたず,あきらめてしまったようである。したがって現在のところ,日本は高速炉「もんじゅ」に頼るしか,核兵器用の核物質は得られない。1995年,ナトリウム火災を起こして以来止まっている「もんじゅ」であるが,どうしても日本政府はこれをあきらめようとせず,今虎視眈々と再開を狙っている危うい情況である。

 ところでJCO臨海事故は,高速炉「もんじゅ」の前身,高速実験炉「常陽」の核燃料を加工する過程で起きた。この「常陽」のブランケットで作られたプルトニウムは,限りなく100%に近いスーパー・ハイグレードと呼ばれる超超高純度の小型の戦術核に最適のものである。これも日本の核武装を懸念したカーター政権によってブランケットをはずされ,現在はプルトニウムを生産していないが,これまでに「常陽」で生産した超高純度プルトニウムが,再生産はされていないが20〜40kg,どこかに保管されているのである。

 

 ■アメリカのコントロールの下,日本の核武装は進められる?

 高速炉のブランケットで超高純度でプルトニウムができるが,それは再処理して取り出さなくてはならない。そのための施設,高速炉用再処理施設が東海村で200億円の予算で建設中(?)の「リサイクル機器試験施設(RETF)」なる代物である。肝心の使用済み燃料供給元である「もんじゅ」が止まったままであるが,RETFは現状がどうなのか殆ど情報が出されないが工事が中止になったとは聞かない。「もんじゅ」とRETFは一体のプルトニウム生産施設である。

 1994年グリーン・ピースが「不法なプルトニウム問題」と題するレポートを発表した。そのレポートは日本のRETFの建設が米核兵器開発の研究所からの全面的な支援のもとになされていたことを明らかにした。例えばRETFの遠心分離器はオークリッジ国立研究所と動燃が共同開発したものであったが,これは軍事技術そのものである。

 多くの人が考える様に,日本の核武装を阻止するというのが戦後一貫したアメリカの政策であったが,近年この政策をアメリカは変更したのではないかと槌田さんは言う。アジア,特に中国の核との対抗として日本をそのコントロール下におくという条件の下で,日本の核武装を認めることにしたのではないかという。確かに韓国には認めなっかた再処理工場(六ヶ所)と「もんじゅ」とRETFを認めたことをみれば,そう考えるのが自然である。

 

 ■ITER−核武装への利用

 先日ITER(国際熱核融合実験炉)計画で政府は炉を建設する候補地を青森県六ヶ所村に決め,7千億もかけた建設が動き出そうとしている。このITERは問題だらけ,危険だらけであるが,核開発に関連しても大きな問題がある。それはこのためにトリチウムが必要になることである。水爆や中性子爆弾を作るにはトリチウムが3〜30g必要になるが,ITERを口実にしてこのトリチウムを公然と外国から買ったり,国内の原発を使って製造することができるからである。「RETF」と「ITER」は核武装への道である。

 

 ■原子力基本法もIAEAも歯止めとならず

 非核三原則は政策でどうにでも変わるが,軍事利用を禁じた原子力基本法がある限り,核兵器は作れないと言われる。しかし槌田さんに言わせると基本法は理念であって罰則もない。この下に続く具体的な法律がない限り,効力はなく,軍事利用を止める歯止めにはならないと言う。また国際的な取り決めとしてNPT(核不拡散条約)があるが,現実にはインド,パキスタン,イスラエルは核を持ってしまっている。

 またIAEA(国際原子力機関)の査察があり,IAEAは日本に一番監視を強めているとも言われている。しかしIAEAとはそもそもアメリカが核を自分のコントロール下におくために作った機関である。アメリカが日本の核を認めるならIAEAはどうにでもなると槌田さんは言う。

 今年も8・6,8・9が近づいてきた。先日,長崎市が平和記念式典で読み上げる平和宣言文の起草委員会が開かれた。その席である委員は「非核三原則に関する福田発言や有事法制の論議などが進む中,日本も核を使う側に立つ戦争をする恐れが出てきていることを指摘すべきだ」と述べたと報道された。福田・安部発言は失言ではない。私達は今日本の核武装問題を正面からすえて問題にしていくべきである。過ちを再び繰り返さないために,今政治を監視し,誤った政治を本当に正していかなければならない時である。

 ●原発と有事法と日本核武装
  有事法制下における原発と核武装

  槌田 敦さん(名城大学)

 連日、政府首脳は「小型核兵器保有は可能」という、日本核武装発言をくり かえしています。
小泉首相は6月10日、福田官房長官は5月31日、安倍官房副長官は5月13日、というように。
私たちは怒りをかくせません。
そこ で、この一連の発言の背景と意味について、槌田敦さんに講演をお願いしまし た。  
是非多くのみなさんが日本の原発・核開発政策の問題点を把握するために参加されるよう呼びかけます。
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日時:2002年7月1日(月) 午後7:00〜9:00
会場:たんぽぽ舎・会議室
交通:JR水道橋駅西口下車、徒歩5分 地下鉄神保町駅下車、A2出口徒歩15分
参加費:¥800(資料代含む)
主催:浜岡原発止めよう関東ネットワーク

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掲載:2002/08/12